さよなら笠井さん





 今から何年前になるんだろうか?

 私が会社の同僚と三崎へイカ釣りに行ったときです。

 この当時まだ魚もろくに釣った事がなく、

 ましてやイカが 陸から釣れるなんて信じられませんでした

 会社の同僚は三崎の漁師の息子でしたが、彼の「三崎は堤防からイカが釣れるよ」

 その一言で無謀にも三崎にイカを釣りに行ったのでした

 もちろん、どんな仕掛けなのかも知りませんでしたが、

 取り合えず貰ったスッテを持っての初挑戦となった訳ですが

 結果は当然散々たるものでしたが、この時初めて長い竿にイカツノで釣る人を見たのでした

 堤防に長い竿が並び次々とイカを釣る光景に「これだっ!」

 次の日から三崎へ通い、見よう見まねでイカ釣りを開始したのでした

 私の竿は5メーター・・・ 周りの竿は8メーターで太刀打ちできない。

 いや、それ以前に釣り方すら分からない

 隣の人に聞いても教えてくれない・・・ なんてメトウ師は冷たいのだろう

 完全に新参者は邪魔者扱いです

 それでも通い続けて竿も新調し、少し釣れるようになってきた

 釣れるといっても周りの釣り師の1/10以下ですが・・・

 転機が訪れたのは、ある人との出会いからでした

 その日は日曜日で今日こそ釣ってやると気合いを入れて早い時間から堤防に

 釣り座を構えて暗くなるのを待っている時でした

 声を掛けてきたのはハチマキを頭に巻いた東海林さんでした

 東海林さんと笠井さんが仲間だということはこの時は知る由もありませんでした

 この後も釣り場で顔を合わせるようになり親しくなっていったのですが東海林さんの

 師匠格である笠井さんが仕掛けや釣り方などを細かく教えてくれるようになったのでした

 現在の当たりの聞き方、誘い方、合わせ方そしてツノの選択などは

 笠井さん、東海林さんから教わり、自分なりに工夫をしたものです

 この出会いがあってから釣果は劇的に伸びていきましたが、数年後には笠井さんに

 もう教えるものはない。それより今日は当たりはある?なんて言われた時は素直にうれしかったですね

 笠井さんにどうしてそんなに釣れるの?ツノ見せて!と帰り際に言われた事もありましたが、

 この時もうれしかった! 笠井さんとは毎年メトウの季節しか会うことはないのですが、

 毎年会える事を当たり前に思っていたのに今年は・・・・

 去年のメトウが最後だったと思うとさびしく感じてしまいます

 来年、再来年と、毎年メトウの季節はやってきて、笠井さんを思い出すことでしょう



心よりご冥福をお祈りいたします。 どうぞ、やすらかにお眠り下さい。



 カッパより


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